2016年2月10日

砂川昌広さんの「背景本」

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本屋の本棚でも、他人の本棚でも本が並んでいるのを見るのが好きだ。私の知らない本があれば気になるし、お気に入りの本があれば嬉しく、苦手な本があっても、その本を好んで読む人がいると思うと世界が広がる気がする。菅啓次郎さんの「すべての書店は、互いにつながっている」という言葉を受け「すべての本棚は、互いにつながっている」かも知れないと思い始めた。

 

 

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砂川昌広

本と雑貨の店 とほん 店主

尼崎生まれ奈良在住。アルバイトから契約社員、正社員、自営業と雇用形態は変化しつつ書店員人生を歩んでいる。趣味は本を読むこと、本を眺めること、本を積むこと。

 

砂川さんの背景本@自宅

哀愁の町棚

 

『哀愁の町に霧が降るのだ』椎名誠、新潮文庫

哀愁の町

自宅の本棚にて上巻のみ発見(下巻行方不明)。椎名誠の自伝的エッセイで高校生の頃に読んだ。椎名誠は最初は小説が好きでほぼ読み尽したので次はエッセイでもと読み始め、バカバカしくも楽しそうで少し哀愁が漂うその世界観にはまる。通学途中の本屋にあった椎名誠のエッセイは全て買い尽して、電車に乗って梅田の大型書店にまで足を運ぶきっかけをつくるなど、私の行動範囲にまで影響を与えてくれた偉大な本。

おれたちの部屋の窓にぴたりとくっついている隣のアパートとの狭い狭い空間のはるか上のほうにスッとマジックインキで線を引いたような青い空が見えた。外はじつに堂々とした秋の青空になっているようであった。 p.232

 

孤独の発明棚

 

『孤独の発明』ポール・オースター、新潮文庫

孤独の発明

 

大学生の頃に読んだ。買ったのは梅田のどこかの本屋。ポール・オースターも刊行されている本を順に読んでいた作家だった。この本は小説というよりは自伝的な内容で、父親とのエピソードの断片が詩的な文章で並んでいる。ストーリーというものはほとんどなく、言葉の響きが気持ちよくて、ときどきパラパラ捲っていた。以下に引用した部分がとても好きで、どうしてこんなに好きなのだろうといつも不思議に思う。

今日によく似た日のことを思い出す。小雨の降る日曜日。家じゅうに広がる気だるさと静寂。半速で動く世界。父は昼寝をしていた。あるいはちょうど昼寝から目覚めたところだったかもしれない。そしてたまたま、私も一緒にベッドにいた。私たちは二人きりで部屋にいた。おはなしをしてよ――きっとそんなふうにはいまったにちがいない。父はべつに何もしていなかったし、午後のまどろみからまだ十分醒めていなかったせいもあって、乞われるままにおはなしをしてくれた。一泊も間をおかずに、ただちに父は語りはじめた。何もかも、私ははっきりと覚えている。P39

 

砂川さんの背景本@とほん

 

クリスマスを棚

『クリスマスを贈ります』ウィリアム・ウォートン著、雨沢泰訳 新潮文庫

クリスマスを表紙

古本コーナーにて陳列販売中。とほんで販売している古本には私が読んだ本も僅かながら入っている。これは私が高校生の頃に読んだ。買ったのは高校の通学途中のある本屋。戦争に駆り出された青年たちの物語で、戦闘経験もあまりない若者だけの部隊が、拠点として価値のない古城の守備を任され、見えない敵兵の姿に怯えながら日々を過ごす話(だったと思う)。モラトリアムの若者を丁寧に描いており、とても感情移入した。戦闘に突入するまでにプレッシャーだけでボロボロになっていく若者たち。高校生の頃には三国志や銀河英雄伝説のような戦記小説も愛読していたが、こうした泥臭い小説も同時期に読んでいたことを思いだした。

「スタン、じつはもう戦争なんか終わってて、ぼくたちが誰からも教えてもらわないだけじゃないのか。」

 

もっと読む→本棚旅行「とほん」 – あなたの本を探そう –

 

「旅」を終えて

登場人物を自分に重ねて読むことが多かったので、その本をどんな気持ちで読んでいたかを思いだすことは、その当時どんな気持ちで日々を過ごしていたか思いだすことと同じだった。自宅の本棚には学生時代に読んだ思い入れの強い本が多く、本を探るほどに学生時代は屈折した日々を送っていた記憶が掘り起こされる。本棚には本だけでなく、本を読んだ時の自分も収められているのだった。

 

 

本と雑貨の店 とほん

住所:奈良県大和郡山市柳4-28
TEL: 080-8344-7676
営業時間: 11:00~17:00
定休日: 木曜日、祝日

web: http://www.to-hon.com/
facebook: https://www.facebook.com/tohontohon
twitter: @tohontohon